大判例

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名古屋地方裁判所 昭和36年(ワ)151号 判決 1964年3月06日

再審原告 宇山真智

再審被告 森昭二 外一名

主文

本件再審の訴はこれを却下する。

再審原告の各参加の申立を却下する。

訴訟費用は再審原告の負担とする。

事実

(再審原告の申立)

再審原告は、民事訴訟法第七一条により参加をなし、もしこれが許されないときは、再審被告牛深炭礦株式会社のため共同訴訟的補助参加をなし

「原判決を取消す。

再審被告森昭二の請求を棄却する。

訴訟費用は原審および当審とも再審被告森昭二の負担とする。」との判決を求める。

(再審原告の主張)

一、本訴の根拠について

(一)  原審確定判決の主文は「被告牛深炭礦株式会社の(1) 昭和二二年一月二八日取締役および代表取締役に岩切重雄を、取締役に後藤武男、宇山真智を、監査役に滝儀三を各選任した旨の株主総会の決議、(2) 昭和二二年一二月二六日取締役および代表取締役に水野善一を、取締役に宇山正已、益子一彦、鈴木理平を、監査役に宇山守節、福島清を各選任した旨の株主総会の決議、(3) 昭和二三年一二月一二日取締役および代表取締役に宇山真智を選任した旨の株主総会の決議、(4) 昭和二四年四月一日取締役に蒔田耕を選任した旨の株主総会の決議はいずれも存在しないことを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」というものである。再審原告は、再審被告会社の株主であり、しかも右原審判決主文で不存在と判決せられた(1) および(3) の各株主総会決議で選任せられた取締役および代表取締役であり、以来昭和三三年一二月再審被告会社が東京地方裁判所で職務代行者選任の仮処分を受けたため意に反して職を去るまで、ひきつづきその地位にあつたものである。

ところが、右仮処分を機会に、これより昭和三四年五月までの間に再審被告会社は訴外渡辺周蔵ら一派の者によつて乗取られるところとなつたが、右渡辺らはその後、再審被告会社の名を使用して再審原告ら旧役員が再審被告会社の経営に関与したことをもつて株主たらざる者による会社経営であつて不法行為になると主張し、再審原告らが在任中に支給を受けた報酬や給料などが再審被告会社の損害金であるとして、熊本地方裁判所昭和三四年(ワ)第四三四号事件をもつて再審被告会社より再審原告ほか一一名の者に対し金二、〇〇〇万円を超える金銭の支払いを求める損害賠償請求訴訟を提起し、これは現に審理中である。そして、右訴訟を有利に展開するための有権的効力を有する証拠をつくるため、原審訴訟のような馴合訴訟を目論んだものである。

(二)  すなわち、右渡辺らは、当時東京にあつた再審被告会社の本店を名古屋市に移したうえ、名古屋地方裁判所昭和三五年(ワ)第一四三三号株主総会不存在確認等請求事件をもつて、再審被告森を原告とし再審被告会社を被告となし、再審被告会社の昭和二六年三月二〇日、同二八年八月二五日、同二九年八月二五日、同三〇年八月二七日、同三二年八月二五日、同三三年一二月二三日の各株主総会不存在およびその抹消登記手続を求める訴訟をなし、馴合訴訟のため簡単に原告勝訴の判決を得たのである。再審原告はこの判決確定後、それを知つて右判決に対し、名古屋地方裁判所昭和三六年(カ)第一号をもつて本訴と同様な再審の訴を提起したが、再審被告森は今回またまた原審のごとき訴訟をなし、被告たる再審被告会社欠席のまま前記原告勝訴の判決を得たのである。そして、原審訴訟も前回の事件と全く同じく馴合訴訟たること疑を容れぬものである。

(三)  以上のように、再審原告は再審被告会社の株主であり、また馴合訴訟の結果不存在と判決された株主総会において選任された取締役であり、しかも前記熊本地方裁判所における損害賠償請求事件で原審判決を不利益な証拠として使用されるおそれがある。そこで、再審原告は再審被告らとはいずれも利害が相反するので、第一次的には民事訴訟法第七一条により参加をなし、もしこれが許されないときは第二次的に再審被告会社のため共同訴訟的補助参加をなし、再審の訴を提起した次第である。

二、再審事由

原審判決における再審事由はつぎのとおりである。なお、再審原告が原審判決の存在を知つたのは昭和三七年四月二五日であつて、右事由を知つたのは同日以後のことである。

(一)  原審判決の証拠となつた検事局回答書なる文書は何人かの偽造によるものであつて、右事実は民事訴訟法第四二〇条第一項第六号の事由であるが、右偽造についてはすでに時効が完成しているので、同条第二項の証拠欠缺以外の理由により有罪の確定判決を得ることができない場合に該当する。

(二)  原審において原告であつた再審被告森は、再審被告会社の株主ではなく、したがつて、株主総会決議不存在確認の訴を提起しうる適格も利益もないわけである。そして、この点は裁判所の職権調査事項であるから、これにつき判断をして訴却下の判決を下すべきであつたにもかかわらず、原審判決はその判断を遺脱している。これは同条第一項九号の再審事由に該当するものである。

(三)  原審における原告訴訟代理人であつた竹中一太郎弁護士の行為は、弁護士法第二五条第一号、第二号に該当する法律上無効の行為である。それ故、原審の原告に関しては適法なる訴訟代理権を欠くものであつて、右事由は民事訴訟法第四二〇条第一項第三号の事由に該当する。

三、本案に関する主張

(一)  原審判決において不存在なりとせられた各株主総会決議は、いずれも適法に招集せられた総会において決議されたものであつて、再審被告らのいうように不存在なものでは決してない。

(二)  がんらい再審被告会社の株式は譲渡禁止の特約付で発行されていたものであるが、昭和一六、七年ごろ再審被告会社にいわゆる首無し会社事件といわれる刑事事件が発生し、この捜査のため、会社の全株券、各種商業帳簿、印鑑などが捜査機関に押収せられ、そのまま昭和二〇年の空襲のため全部焼失したのである。しかし、その間の昭和一八年中、当時代表取締役であつた訴外南英吉は株主の訴外油谷真一(のち改名して油谷晨介という)に対し、自己所有の全株式を譲渡し、右油谷はこれを取得して再審被告会社の全株式を所有するに至り、みずから代表取締役社長に就任したのである。このとき株券の引渡はなかつたけれども、旧商法時代のことであるから引渡は会社に対する対抗要件たるに止まるものであり、しかも再審被告会社はこの譲渡を承認していたのである。そして、その後昭和二一年八月八日、右油谷は再審被告会社の株券を新しく発行し、自己および一族の者と株式を所有し、株券の引渡も受けた。

(三)  ついで、昭和二二年一一月、再審原告は訴外水野善一とともに右油谷より同人およびその一族の者が所有する再審被告会社の全株式を取纒めて譲渡を受け、さらに昭和二三年ごろ右水野からもその所有する全株式の譲渡を受け、再審被告会社の全株式を所有するに至り、代表取締役社長にも就任し、爾来再審被告会社の経営に当り、その地位において株主総会を招集、主宰してきたものである。したがつて、これにより開催せられた総会の決議は決して不存在ではない。

よつて、前記申立のとおりの判決を求めるため本訴におよんだ

(再審被告森昭二の申立)

主文第一項同旨。

なお、再審被告牛深炭礦株式会社は適式の呼出を受けたが、本件準備手続期日ならびに口頭弁論期日に出頭せず答弁書その他の準備書面も提出していない。

理由

まず本訴の適否について考察するに

一、再審の訴は、第三者であつてもその者に判決の効力がおよびこれが排除につき不服申立の利益があれば、これを提起できるものと解されるが、それをどんな形式でなすべきかにつき民事訴訟法は直接規定するところがない。学説によれば、右の第三者であつて訴訟承継人でない者については、ひとまず原審当事者のいずれか一方の補助参加人として再審の訴を提起し、これによる訴訟係属後あらためて民事訴訟法第七一条による参加をなすべしとの考えもあるが、しかしそれでは、被参加人が直ちに右訴の取下をなさんとするような場合にこれを阻止することができないため、その後に予定する第七一条の参加の途も奪われることになつて不都合である。それ故、直接に右の第三者が再審原告となり原審当事者双方を再審被告とする訴訟提起の形式も許されるべきである。ただ、原審において当事者でなくその地位の承継人でもない者が右訴を提起するには、それとともに第七一条による参加の申立をなしし、かつ、右の申立には自己の主張する権利もしくは法律関係に相応せる独自の請求が含まれていなければならないと解される。けだし、再審訴訟において復活審理されるものは原審訴訟で対象となつた訴訟物なのであるから、そうでないと他人間の訴訟物しか存在せず、再審原告としてはその審理判断を受けるべき正当な当事者たる資格を有しないからである。

これを本件についてみるに、再審原告は第一次的に第七一条による参加をなし再審の訴におよぶというのであつて、そのこと自体は、再審原告が前述の第三者に該当するかどうかの点をしばらく措くとすれば、別段不当でないが、右申立は再審被告森の請求の排斥を求める申立の域をでないもので、なんら自己独自の請求を含まず、かかる申立をもつてしては適法な参加申立ありというをえず、右申立はすでにこの点において不適法たるを免れない。

二、つぎに再審原告は、右申立が容れられないときは第二次申立として再審被告会社のため共同訴訟的補加参加をなし申立記載のとおりの判決を求めるというのであるが、本件の場合が共同訴訟的補助参加にあたるかそれとも通常の補助参加であるかはしばらく措き、右申立によると、予備的に再審原告はその地位を退き代つて被参加人たる再審被告会社が再審原告の地位に就くことになる。一般に、第七一条による参加申立が不適法なときにこれを補助参加の申立として扱い、あるいはこの両者を予備的に申立てることは別段これを禁ずる理由はないのであるが、本件においては、右申立とともに再審の訴の提起が行われているため、もし再審原告の右申立が許されるとすると、再審被告会社は第一次的には再審被告であり第二次的には再審原告であつて、同一訴訟内において対立する地位を予備的な関係においてもつことになつて、裁判所としては原告であり被告であることにもとずく法定の手続が保持し難く、審理も不必要に錯雑するばかりか、再審被告会社としても相矛盾する訴訟活動を余儀なくされ訴訟追行上の地位がいちじるしく不安定なものとならざるをえない。このようなことを考慮するならば、右のような申立形式はひとえに再審原告のめの便宜に偏するものとしてこれを許さないのが妥当な措置である。それで、再審原告の補助参加の申立による再審の訴も不適法なりといわねばならない。

よつて、本件再審の訴ならびに再審原告の各参加の申立はいずれも他の判断をなすまでもなく不適法であるから、これを却下することにし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 木戸和喜男 松下寿夫 鶴見恒夫)

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